NHKの朝ドラ「おちょやん」のモデル浪花千栄子の生涯を描く立身伝の第16話「夫の2代目・渋谷天外が九重京子と不倫をして離婚」です。
脚本家の妻が良い役を取っては劇団の運営に支障を来すという理由から、浪花千栄子は誰もが嫌がる役ばかりを押しつけられ、20年間も女優としては不遇の時代を過ごし続けてきた。
しかし、昭和24年11月に曾我廼家五郎劇出身の女形が辞めていくと、「松竹新喜劇」の人気が出始め、昭和25年(1950年)に入ると、浪花千栄子も「松竹新喜劇」の女優頭となって人気が出始めてきた。もう43歳になっていた。
そのようななか、夫の2代目・渋谷天外が女優の九重京子を愛人にしているという噂が聞こえてきた。
九重京子は、大坂松竹歌劇団出身の女優で、昭和22年に大坂松竹歌劇団を退団した後、歌謡ショーなどに出演していたが、松竹に誘われ、昭和23年12月に「松竹新喜劇」の旗揚げに参加した。
それから約1年後、妻が重いと悩んでいた2代目・渋谷天外が、九重京子に相談を持ちかけたのが、浮気の発端らしい。
松竹からよろしく頼まれていたこともあり、浪花千栄子は九重京子を弟子のように可愛がっていたので、2代目・渋谷天外が九重京子と浮気をしているという噂を聞いても信じなかった。
しかし、やがて、浪花千栄子は2代目・渋谷天外と九重京子と不倫をしている現場を目撃してしまうのだった。
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浪花千栄子は、道頓堀の仕出し料理屋「浪花料理」で「おちょやん(子供の女中)」をしていた頃に出会っていたので、2代目・渋谷天外の女遊びが激しいことを知っていた。
2代目・渋谷天外は交際している女性が多いので、浪花千栄子がデートの相手を調整するマネージャーのような事もしていた。
つまり、女性関係が激しい事を承知の上で、浪花千栄子は2代目・渋谷天外と結婚したのである。全ては惚れた弱みだった。
結婚すれば、女遊びは治るだろう。わずかな希望を託したが、無駄だった。結婚しても2代目・渋谷天外の女遊びは治らず、浪花千栄子が女を買う金を工面するということもあった。
これまでにも何度も夫の不倫を許してきた浪花千栄子だったが、今度という今度は許せなかった。
よりによって、なぜ、弟子のように可愛がってきた九重京子を愛人にするのだ。
昭和25年4月、2代目・渋谷天外は「外へいて、すばらしい本を書きたいさかいに、15日ほどやらしてんか」と言って家を出たきり、帰ってこなかった。
浪花千栄子と2代目・渋谷天外は、楽屋で会っても口も聞かなくなった。夫婦が同じ職場というだけではなく、夫の愛人・九重京子まで同じ職場なので始末が悪い。
不穏な空気が楽屋だけで収まればよいが、次第に舞台にまで影響が出てきた。「松竹新喜劇」の芝居を観に来た客が、何か違和を感じる程だった。
そのようななか、2代目・渋谷天外が新聞で「浪花千栄子と離婚した」と発表した。しかも、愛人・九重京子が妊娠したのだという。
なんと、浪花千栄子は、自分の離婚を新聞で知ったのである。
そのようななか、昭和25年11月に九重京子(渋谷喜久栄)が長男・渋谷成男を出産する。
こうして、渋谷天外は42歳にして始めて我が子を抱いくと、座長という立場を忘れ、スキャンダルなどクソ食らえと、愛人の元に飛び込んだのである。
浪花千栄子は松竹新喜劇を辞めようとしたが、トップ女優だったこともあって、松竹の幹部が辞めさせてくれない。
昭和25年12月26日、古くからの支援者だった日本画家・川上拙以らが話し合いの場を設けてくれたが、2代目・渋谷天外は話し合いの途中で、「これから天王寺の宿で、原稿を書かんならん」と言い、逃げてしまった。
浪花千栄子は忘れていったマフラーに気付いて追いかけると、マフラーを受け取った2代目・渋谷天外は照れくさそうにマフラーを首に巻き、背中を丸めて、そそくさと立ち去った。
苦労をして20年間も夫を支え続けてきたのは何だったのか。浪花千栄子は、去りゆく夫の背中を観て、もうダメだと思い、昭和26年4月に「松竹新喜劇」を退団して、みんなの前から消えた。
松竹新喜劇を退団した浪花千栄子は、京都の嵐山をさまよい、桂川の断崖から飛び降りて自殺しようとしたが、轟音を立てて走り去るバイクの音で我に返り、自殺を思いとどまった。
そして、家という物に縁の無かった浪花千栄子は、家に強い思いがあり、2代目・渋谷天外が無理をして愛人の九重京子に家を買ったという噂を聞き、2代目・渋谷天外を呪い続けた。
こうして、2人は結婚生活20年に終止符を打って離婚したのだが、浪花千栄子が籍を抜かなかったので、2代目・渋谷天外が九重京子と入籍できたのは、ずっと後のことである。
それは、妻としての最後の抵抗だったのかもしれない。
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