大塚康生が中村和子の車を廃車にして手塚治虫が喜んだ理由

アニメーター塚康生が手塚治虫のTVアニメ「W3(ワンダースリー)」のオープニングを手がけた時のエピソードです。

アニメ「ワンダースリー」のオープニング秘話

昭和39年(1964年)、「東映動画(東映アニメーション)」のアニメーター大塚康生は中古車「コンテッサ900」を25万円の2年払いで購入し、念願の車を手に入れて乗り回していた。

中村和子とベレッタそのようななか、「東映動画」から手塚治虫の「虫プロダクション」へと移った美人アニメーター中村和子が「いすず自動車」の「ベレッタ」を新車で購入したので、車好きの大塚康生に「ベレッタ」を見せに来た。

すると、大塚康生は、新車の「ベレッタ」が羨ましくなり、「ちょっと運転を教えてあげる」と言い、中村和子を乗せて新車の「ベレッタ」で公道へと出た。

そして、大塚康生は大泉の街道で「高速コーナーリングというのをやってみせてあげるよ」と言い、アクセルを踏みながらブレーキを同時に踏む「ヒール・アンド・トゥー」を披露した。

ところが、大塚康生は運転に失敗して、車が2~3回転して塀にぶつかり、新車の「ベレッタ」はフロントが潰れたうえ、上からコンクリートブロックが落ちてきた。

大塚康生が「廃車にするしかないな」と言うと、中村和子は「せっかく買ってもらった車がこんなになっちゃって、主人にとても報告できない」と言い、道路にしゃがみ込んで、真っ青になって震えていた。

そこで、大塚康生は、中村和子の夫・穴見薫に謝罪するため、「虫プロダクション」へ行くと、夫・穴見薫は会議中だったので、夫・穴見薫を呼び出してもらい、車が塀にぶつかって廃車になったことを謝罪した。

すると、夫・穴見薫は「よかった。ちょうど今、新番組「W3(ワンダースリー)」のオープニングをやる人がいなくて、深刻になっていたところなんですよ。車のことはどうでもいいですから、これをやってください」と頼んだ。

実は「虫プロダクション」は、TVアニメ「ジャングル大帝」に平行して、TVアニメ「W3(ワンダースリー)」の制作を開始していたのだが、オープニングを担当する人が居なくて困っており、ちょうどオープニングのことで会議をしていた所だったのだ。

夫・穴見薫は大塚康生を会議室に連れて行き、手塚治虫に「先生、すべて解決しました。オープニングは大塚さんがやってくれるそうです」と言って事情を話すと、手塚治虫は「大塚さんにやってもらえるなら、そんな車、1台でも2台でも潰れていいよ」と喜んだ。

実は、手塚治虫は、以前から何度も大塚康生を「虫プロダクション」へ誘っていたのだが、大塚康生は誘いを断り続けていたのだ。

こうして、その場で「W3(ワンダースリー)」のオープニングの打ち合わせが始まり、大塚康生は「東映動画」の仕事と「虫プロダクション」の仕事を掛け持ちし、「W3(ワンダースリー)」のオープニング30カットを制作するため、1週間、眠れない日々が続いた。

その後、大塚康生は1週間で「W3(ワンダースリー)」のオープニングを完成させ、事故は無かったことになり、作画料として4万5000円まで貰い、塀も「虫プロダクション」が直してくれた。

当時、大塚康生の東映動画の給料が4万円だったので、かなりのバイト料になったが、これ以降、「大塚康生に車を貸すと壊される」という噂が広まったのだった。

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